これは圏です(はてな使ったら負けだとおもっていた)

きっと何者にもなれないつぎの読者につづく。

麻耶雄嵩読書会 に参加してきました

先週水曜日の麻耶雄嵩読書会に参加してきました。

これは、麻耶先生実に五年ぶりの新刊『貴族探偵』の発売を記念して、麻耶雄嵩先生を囲んで読書会を開こう!と云う企画でした。集英社の担当編集者の方からワセミスの方にお話を頂いて、実現したものです。

会場は早稲田大学学生会館。僕は宿題やら課題やらを片付けて、一時間前くらいに会場入りをしました。


もう、時間が迫ってくるに従って、体中の顫えが止まらなくなり、もうどうしよう、麻耶先生が来たら死んで仕舞うかもしれない……!!くらいに有頂天になっていました。参加者はワセミスや東大の新月お茶の会慶應大学KSDの方々、ワセミスOGの東京創元社の編集者の方など30名弱。続々集まる中、何故か最前列だけ埋まらなかったので、そこにワセミス一年勢が座ることに!
殺人的なメールをくれた友人と『どうしよう!麻耶先生が来ちゃう!』などと騒いでいると、遂に開始の時間に。


そして……御登場です!麻耶雄嵩先生!!


滅茶苦茶格好好かったです。
凄く格好好かったです。

いや、これはファン補正が掛かっているのでもなんでもなく、落ち着いて渋めで格好好かったです。


そして、いよいよ読書会開始!
セミスの幹事長とレジュメ担当者、集英社の担当編集者さんからの挨拶のあと、麻耶先生の

麻耶『麻耶雄嵩です。お手柔らかにお願いします』


と云う言葉で開幕!

その後は、『貴族探偵』に収録されている各短編について感想や質疑応答をして、最後に全体・その他の感想・質問、そして『貴族探偵』販売&サイン会と云う流れでした。

僕は、『流石に全作サインして頂くのは迷惑だろう……』との熟慮の末、夏冬・翼ある闇・鴉・神様ゲームと四冊も本を持ってきていたのですが、「いや、五冊でも迷惑にはかわりないな……」と熟慮した挙げ句、僕の聖典である『夏と冬の奏鳴曲』を、『貴族探偵』以外にもう一冊サインして貰おう!と決意したのでした……麻耶先生、参加者のみなさん、ご迷惑をお掛けしました m(_ _)m
麻耶先生は、貴族探偵前提でペンを用意されていたので、銀インクのしかなく、黒ペンをわざわざ他の方にお貸し頂いてサインして頂くことに。その上スペースの小さい文庫本……本当に済みませんでした……orz

もうぼくのすぐ左前方に麻耶先生が座っていて、ぼくはもうそわそわし通しで、ジロジロ見るわけにもいかないし、ああでもどうしよう……!!ととても挙動不審に。質疑応答中にも何度か発言させて頂いたのですが、しどろもどろになってしまったりして、失態を……。同じ時間・空間を共有していることが信じられませんでした。凄い!眼の前に麻耶先生がいるなんて!!
本当に産まれて来てよかった。早稲田にしてよかった。そう思える、一生分の運を使い果したのではないかと思われる程の体験でした。

その後、麻耶先生を囲んでの呑み会があったのですが、僕は用事があったので後ろ髪を引かれつつも辞去……!!嗚呼、みんなあんなことやこんなことを訊いたんだろうなあ!と胸が疼きます……!

さて、そんな自己中っぷりを発揮してばかりでは仕方ないので、せめての罪滅ぼしとして、当日のやりとりの抄録を掲載したいと思います。

担当編集者さん曰く『ネタバレは御遠慮下さい』と云うことなので、「『続きを読む』とかでも駄目ですか?」と質問させて頂いたところ、『それなら……まあ……』と云うことでしたので、ここでは取り敢えず差し支えなさそうなところだけ書いて、この後核心に触れる質問は『続き』+白文字で記述して行きたいと思います。

麻耶雄嵩読書会』質疑応答 抄録

以下、『――』で始まる行は参加者の発言、『麻耶』は麻耶雄嵩先生、『担当』は集英社の担当編集者である岩田さんの発言です。
収録されている発言はすべてmr_konn=石井大海のメモによるもので、内容の間違い等はすべて石井大海の責任です。また、メモからの再生なのであんまり口調とかは再現出来ていません。発言はかならずしも出た順番ではなく、話題に合わせて再配置してあります。

不味いところがありましたらご連絡頂ければ、すぐに対処したいと思います。

それでは、どうぞ!

『ウィーンの森の物語』(『貴族探偵』改題)

――物語的には普通の小説ですが、再読すると犯人がとても頭がよかったのだとわかります。一読しただけでは判らない様になっていますが、この様にした意図は?
麻耶「『何とすごい犯人なんだろう』みたいな強調をしない様にしたらこうなった。もうちょっとしてもよかったかも?」


担当「これ何dunit何でしょう?」
麻耶「あまり『〜dunit』を書こう、と思ってつくっていない。トリックを思い付いたらそれを使うだけ。勿論、犯人当ての依頼でHowdunit書いちゃったら不味いけど(笑)」

『トリッチ・トラッチ・ポルカ

――題名の意図は?
麻耶「何となくです。シリーズ化して纏めるときに、何か趣向があった方が良いなぁ、と。『ポルカ』が刑事の動きっぽい。ヨハン・シュトラウスにしたのは、何となく『ワルツ』が貴族っぽいので。」


――女性が登場しなかったのは?
麻耶「まだ二作目で、『女性を口説く』パターンが考えてあった訳でなかった。書いていく内に、女性の方が視点人物を増やさないですぐ本題に入れて楽だと気付いた。」


――結果的に、五話の中で一番刑事が頑張った回でした。その後は警察と距離感がありますが、この回での警察の扱いにはどういう意図が?
麻耶「警察の扱いはあまり下にしないでおこうと思っています。でも探偵の活躍を描くとどうしても下めに見えてしまう。今回は刑事視点だから頑張りが見えたけど、他の作品だと貴族探偵と女性の絡みや貴族の捜査を描写しなくてはならず、その皺寄せで刑事の描写が減ってしまう。描写がないだけでちゃんと捜査していて、推理に必要なデータを提示するにはそれなりに信用できる警察である必要がある。」

『こうもり』

――五作の中で、田中だけが単独で二回登場したのは?
麻耶「使用人の個性を無くそうと思った。毎回変えてしまうと、その事で却って個性が出て仕舞う。『全員一回ずつ』とか綺麗にしない方が個性が消えるので。だから、もっとぶ厚くなれば庭師なりコックなりが出て来る可能性もあった。」


――くどい様ですが、メイドは二人居るのでは!?
麻耶「参考にします、それは(笑)」
担当「女性に話を聞くのに、田中の方が良かったからと云う風に聞いています。」
麻耶「あとは、ダブらせる為にやったのが大きいです。」

『加速度輪舞曲』

――すごく"危うい"作品だなぁ、と。完全にロジックのみで、ドミノ倒しみたいに進んでいく作品。元々本格ミステリは詭弁に近いのに、それを数珠繋ぎにしている。
麻耶「危ういからスリリング。現実だったら迷宮入りだけど、スリリングな方が面白い。岩が落ちてきて、その先がやりたかった。川が氾濫したり、館壊れたり……そこまで云っちゃうとギャグになっちゃうけど(笑)」


――結局、『風が吹けば桶屋が儲かる』的だけど、その一つ一つがとても妥当で、『九マイルは遠すぎる』の様な妄想推理ではない。
――『本格ミステリ09』に収録された時、法月綸太郎の「しらみつぶしの時計」と並んで、友人とずっとこの話で持ち切りでした。とてもロジックの勉強になりました!
麻耶「あまりぼくからは勉強しないで(笑)」


――『昨年鬼籍に入ってしまった』『安楽椅子探偵を看板にしている作家』には誰かモデルが居るのか?
麻耶「居ないです。居るって思わせられればそれでよかった。」


――ロジックものは、大抵タネになるアイデアがあってそこから書くと思いますが、本作では何ですか?
麻耶「小さいところからコツコツと大きくしていった。プロットから入った。」
――その最初のところは?
麻耶「最初は本当に家を壊した(笑)それはプロット段階で捨てましたけど。家の中で起こった事が外に影響を出さないといけないので」

『春の声』

――普通、円環殺人は構図を最後にもってきて驚かせるものですが、これはロジックで逆転させているのが凄いです。やはり『貴族探偵』はロジック指向の本なのでしょうか?
麻耶「本の締めだし、三人を活躍させたかった。円環殺人のアイデアもあって、その二つを結んだ。ただ単に円環でした、で終わってしまっては新しくないので、ロジックで押しました。三人分考えるのが大変だった」


――本シリーズに限らず、短編ごとにロジックが強くなってきている気がします。『死人を起こす』も『答えのない絵本』*1も。ロジックものを書くのはやっぱり楽しいですか?
麻耶「楽しいし、苦しい。華やかなアイデアが出て来ると良いけど、細かいのを積み上げるタイプだと、『あっ、これに似てる……』となってしまうと辛い……」

全体を通して・その他

――続編は?
麻耶「依頼があれば。同じ使用人かもしれないし、違う使用人が出て来るかもしれない。」


――貴族本人による解決は?
麻耶「ありません(キッパリ)」


――貴族探偵のプロフィールは……?
麻耶「ナゾです(笑) 貴族である、と云うこと以外は……」


――新しく貴族探偵を作った切っ掛けは?
麻耶「探偵とワトソン役の関係について考えるのが好き。『物語を終わらせる』のが探偵の使命、と云う考えを突き詰めた結果出来たのが貴族探偵。『神様ゲーム』と通底しているころがある。トリックと同じで、探偵を思い付いたから使ってみた。それが評判がよかったから続きを書いた……と云う感じ。物語としても、三編くらいは書かないと意味がなかったし、続きを書くつもりはありました。」


――貴族は装置化が進んでいるので、オーソドックスな短編がやりやすいのでは?
麻耶「貴族出さなきゃいけないし、女性と絡ませないといけないし、というところがヤヤコシイ。でも、メルとか木更津みたいにやらなくていいから楽です。」


――『隻眼の少女(仮)』は、出るんでしょうか?
麻耶「多分九月にでます。」
――2010年の!?
麻耶「どうなんでしょう、多分そうです!」

ネタバレありのレポートについては、少々お待ちを。
用意しました。一つ前の記事を辿ってください。

*1:いずれもメルカトル鮎シリーズ